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Interview インタビュー
トヨタ自動車の社外取締役の役割

会社を理解し、企業価値向上へのトランスフォーメーションを推進

トヨタ自動車 取締役
国際社会経済研究所 理事長
藤沢久美

企業の事業戦略の「本気度」を示すファクターとして機関投資家が注目する「社外取締役」。2025年6月にトヨタ自動車の社外取締役に就任した国際社会経済研究所 理事長の藤沢久美氏に、自身の役割や活動内容を語っていただいた。
インタビューのポイント
  • 本音の議論を通じて取締役会の参加者の目線を揃え、ワンチームに
  • 開発車のテストコースでの試乗や生産現場でのディスカッションも
  • 企業の経営陣は、社外取締役が自社を学ぶ場を積極的に設けるべき

「新しい方程式をつくってほしい」

就任後最初に参加した取締役会の冒頭、議長である代表取締役会長の豊田章男氏が開口一番「取締役会のミッションは、日本を強くすることです」とおっしゃいました。

取締役会では、トップが形式張らずに自分の言葉で語りかけるので、取締役側も「鎧」を脱ぎ自らの想いを率直に述べます。議案の説明では、担当役員が経緯を説明しながら苦難を思い出し感極まって涙することも。このような本音の議論が10人の取締役の目線を揃え、ワンチームにするのでしょう。日本を代表する企業の強さの一端を垣間見た思いがしました。

取締役体制を新たにした理由として、豊田会長は「新しい方程式をつくってほしい」とおっしゃいました。私自身は、起業、社外役員、多くの公職などの経験を生かして、さらなる企業価値向上に向けた社内のトランスフォーメーションや市場の創出を促していく役割と理解しています。さらに同社からは「まず、トヨタを理解してください。そのための機会はたくさん作ります」と言われました。

その言葉のとおり、トヨタ自動車の社外取締役の活動は多岐にわたります。

毎月の取締役会とサステナビリティ会議のほか、役員人事案策定会議などにも出席します。商品化決定会議では自動車のモックアップ(試作品)を見ながら、「ドア口が高いので女性は乗りづらそう」など思ったことをその場で開発担当者に意見します。

生産工場などでは「ジャスト・イン・タイム」や「カイゼン」などで知られるトヨタ生産方式(TPS)の研修会がほぼ毎月開催されており、そちらにも可能な範囲で参加しています。先日、現場の方が「ドアの試験では300回開け閉めします」とおっしゃるので、「なぜ300回なのですか?」と質問し、その場でディスカッションしました。長年の社内ルールだからと思考停止しないよう、現場に新しい風を吹き込むことも社外取締役の務めと考えます。

テストコースで開発中のEV(電気自動車)に試乗させていただいたこともあります。機械むき出しの左ハンドルを切りながら「これ欲しい!」と思いましたね(笑)。

各部門の責任者から最新の事業環境のレクチャーを受けるのも仕事です。トヨタ自動車レベルになると、ヘッドオフィス、ビジネスユニット含めると30名以上のCEO、プレジデント、本部長がいるので、週に1回、3~4人から話を聞いても3カ月近くかかります。

全員が終わる頃には情報がアップデートされますので、幹部社員からは常にレクチャーを受けるイメージです。

目指す方向に導く「タグボート」

定期的な会議やレクチャーのほか、地方開催のモータースポーツの現場やイベントにも足を運びます。また、交通安全祈願や社業運営に対する神恩感謝のために、役員一同で寺や神社にも参拝します。社外取締役に就任以降、週末はほぼトヨタ自動車の予定で埋まっています。しかし、豊田会長をはじめ取締役会のメンバー全員が仕事に人生を捧げています。

トヨタ自動車に限らず、多くの企業が時代の変化のスピードへの対応を模索しています。社内の人材にはない知見やネットワークをもつ社外取締役は、会社という本船を目指すべき方向に導く、小型ながらも馬力十分のタグボートといえるかもしれません。

社外取締役が会社の持続的成長に貢献するためにも、経営陣は自社の社内文化、事業戦略、現場の取り組みを理解する場を設けて、日頃からコミュニケーションを図っていただきたいと考えます。