
目標達成までのパス(過程)に注目「重点」と「順番」が明確なメッセージ
フィデリティ投信
運用部
ディレクター・オブ・リサーチ
王子田賢史氏
数字をベースにした差別化戦略
35年前に運用業界に入った。ボトムアップリサーチによる中長期の成長株投資が原点で、その後オールウェザーに知見を広げた。現在は中長期の成長株系4本、バリュー系2本のファンドを担当し、合計の運用資産残高は約5000億円だ。
一つは、高い競争優位性やキャッシュ創出力を誇る、優れたビジネスモデルを確立した企業。もう一つは、業界は成熟しているものの資本市場に向き合っている「顔の見える」経営トップの企業だ。
我々が企業面談で聞きたいのは、業績達成のために今後どう手を打つのか、そのパス(過程)だ。質問をすると「あくまで目標だから」といった不透明な回答が依然多い。
複数の事業セグメントを持つ企業が「営業利益率を5年間で2倍にする」場合、各セグメントでどう改善を図り、それぞれが目標達成にどの程度貢献するかといったプロセスを知りたい。
CFO(最高財務責任者)インタビューは重視している。2023年に東京証券取引所が上場企業に対し、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請して以降、株価を動かす要因として資本政策の重要性が増し、ようやく投資家と事業会社の対話が噛み合うようになった。数字をベースにした同業他社との差別化戦略が見えてくる記事構成が望ましい。
特集コンテンツも同様だ。最近は地球環境への取り組みなど、ややもすると社名を隠せばどの企業の統合報告書か分からない場合がある。こちらも数字に基づく業界分析や自社の立ち位置などの記事が読みたい。
インフレ環境に適したIRへの転換
ある総合電線メーカーは2019年以降、ROIC(投下資本収益率)の向上も考慮した経営を行っていたが、全ての事業が成長するような楽観的な経営計画が示されていたため、マーケットではROICの持続的な向上が懸念され、PBR(株価純資産倍率)は1倍割れで推移していた。
我々は面談などを通じて、成長事業は投資と回収の見通しを具体的に示す必要性を伝え、同社も成長事業への投資が段階的に将来の利益に貢献するイメージを投資家に提示した。対話開始から1年後の2024年初めにはPBRは1倍台後半まで伸び、東京証券取引所から好事例として紹介された。総花的なIRでなく、本業を改善した後に株主に還元する「重点」と「順番」が明確なメッセージが評価されたと考える。
欧米やアジアの投資家が集う海外で開催されるミーティングを有効活用すべきだ。IRへの熱意を直接伝えられ、複数の海外投資家から一度に情報収集できるので効率も良い。
日本経済は、今日の現金の価値より明日の現金の価値が高いデフレから、明日投資するより今日投資したほうが低コストで済むマイルドなインフレに転換しつつある。
投資家に響くIRコンテンツも、財務の健全性から成長投資の中身にシフトしている。「稼ぐ」ことを前面に出した投資家コミュニケーションや統合報告書の作り方に取り組むタイミングといえるだろう。