
統合報告書の「事業の撤退基準」はガバナンスが整備されている証左
アムンディ・ジャパン
運用本部 株式運用部
ジャパン・ターゲット戦略ヘッド
春川直史氏
PBR1倍割れは「アピール不足」
『アムンディ・ターゲット・ジャパン戦略』コンポジットは2000年8月設定で、私は2005年から運用を担当している。2025年9月末時点の運用資産残高は約1900億円だ。
バリュー運用スタイルで、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る銘柄の中から、中長期的に競争優位性のある事業を持つ企業を発掘。経営陣との対話を通じて経営改善策を提案し株価上昇を目指す。
重視するのが経営陣のエンゲージメントに対する姿勢だ。投資家の話に耳を傾け、それを経営に反映してくれる企業でなければ、社会の変化のスピードに応じたガバナンスのアップデートは難しい。例えば、1時間の面談中ずっと自分がしゃべり続けていてこちらの話を聞いていない、興味も示さないような企業は投資しづらい。
PBR1倍割れには「アピール不足」の側面がある。統合報告書でも数字を並べるだけでは投資家の印象に残らない。「当社の部品は高い品質が評価され、各国のメーカーから信頼を得ている。中長期で成長していく」など、テレビCMのような端的なコピーで自社のビジネスや業績をもっと積極的にアピールしてほしい。
注目しているのは「事業の撤退基準」だ。伊藤忠商事の統合報告書では事業EXIT選定基準として、①3期累計赤字、②リターンの投資時計画比下方乖離、③付加価値の3期累計赤字──を明記している。
売上や利益が未来永劫伸び続けるビジネスはない。撤退基準が投資家など外部にも明確に示されていることは、それだけガバナンスが整備されている証左といえる。
方針修正をためらわず迅速に公表
キッチンなど水まわりのホーロー製品に強みを持つタカラスタンダードは2024年、21年ぶりに社長が変わった。新社長の就任以降、個人向けを含めて投資家説明会の回数が増え、ビジネス誌などメディアに頻繁に登場するようになった。
機関投資家も目にする機会が増えれば「説明会や取材を申し込もうかな」となる。
海外投資家が一番チェックしている指標はROE(自己資本利益率)だ。世界の同業他社と比較してROEが低いと「投資してもスケールアップや株主還元が期待できない。市場が注目しないので流動性も低いだろう」と見なされ、検討対象にすらならない。ROE改善のスピードも重要だ。
京セラは2024年10月、保有するKDDI 株式売却に関して「今後5年間で1/3程度」と公表。投資家の反応が悪いと、4カ月後に「今後2年間で1/3程度」と早速修正し、かえって期待感を高めた。しずおかフィナンシャルグループは2024年前半の投資家説明会でROEへの言及が少なく株価が低迷した。そこで翌年5月にROEを業界内の高水準に引き上げると、株価は上場地銀グループ平均を上回る上昇率を示した。
このように方針修正をためらわず、自社も納得、投資家も納得する資本戦略や企業価値向上策を、迅速に実行する日本企業が一層増えることを期待したい。